大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1401号 判決

被告人 西浦豊数

〔抄 録〕

執行吏が執行をするに際しては、その身分を証する証票及び執行力ある正本を携帯し、関係人から請求があつたときはこれを示さなければならないこと及び西川執行吏が原判示執行の際右証票及び執行力ある正本を被告人に示さなかつたことはいずれも記録に徴し所論の通りであるが、しかし執行吏が執行に際し関係人から請求があつたときは証票及び執行力ある正本を示さなければならないというのは、執行吏の資格を証するためであることは執行吏規則(明治二十三年法律第五十一号)第十四条及び民事訴訟法第五百三十四条第二項の趣旨に徴し明かである。然るに原判決挙示の証拠によると、西川執行吏はその前日執行保全のため本件現場に至り、被告人に対し名刺を差出してその身分を明かにした上、仮処分命令の正本を示し仮処分の趣旨を説明して立退きを求めたところ、被告人はこれに応ぜず、却て暴力に訴えるような気配を示したので同執行吏は執行を中止し、その翌日再び原判示のように現場に赴き被告人に立退きを求めたのであつて、被告人としては既に西川執行吏の資格及び前日示された仮処分命令により執行されたものであることを熟知していたものであるから、更に仮処分命令の正本を示す必要はないものと解すべく、また西川執行吏の証票については被告人より呈示を求められなかつたというのであるから執行吏が自ら進んで証票を示す必要はないのである。また刑法第九十五条第一項の罪は公務員が職務を執行するに当り、公務員に対し暴行又は脅迫を加えることによつて成立し、その暴行又は脅迫は公務員に対する直接のものたると間接のものたるとを問わない趣旨と解すべきであるが、原判決挙示の証拠によると、被告人は西川執行吏が仮処分命令の執行のため従来の慣例に従い、債権者が同道した人夫等に対し協力を求めた結果、人夫等が執行のため被告人方建物内に立入らうとするや、同人等に対し両手に持つていたアイロン及び金槌を振上げ、家の中に入ると殺すぞと申向け、傍で執行の指揮をしていた西川執行吏に対し執行を続ければ如何なる危害を加えるかも知れないような気勢を示して脅迫した事実を認めることができる。尤もこの点に関し西川執行吏は原審公判廷において、証人として被告人は直接自分に対し脅迫はしなかつたと述べているが、右供述は同人に対する直接の脅迫的言動はなかつたという趣旨に過ぎないのであつて、同人に対する脅迫の事実を全然否定するものでないことは同人の供述の全趣旨に照し明かであるから、右証言があるからといつて同執行吏に対する公務執行妨害罪の成立を認める妨げとなるものではない。要するに原判決の挙示した各証拠を綜合すると原判示事実は優にこれを認めることができ、記録を精査するも原審の事実認定に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

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